和風小説企画に参加した作品に出てくる一人です。
艶やかな着物の表現がとても素敵なのです! そして、かわいいっ!
子犬&五郎に引き続き、サプライズで描いてくださいました!
やった〜〜〜♪ 嬉しいっ(>ω<
こんなにも愛らしくて儚げな椿ちゃんを描いてくださって、
黒雛さま、本当にありがとうございましたvvv
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ずっと空き家になっている、庵のような小さな平屋の縁側で、五郎は腰をおろしていた。
村はずれにあるその建屋は、民家から少し離れているせいか、人が来る事も少なかった。
人が訪れたとしても、村長の妻や息子たちが、家が朽ちないよう戸を開け、風を通すくらいで、ほとんど野ざらしといっても過言ではないだろう。
つまはじきにされている五郎としては、彼らと鉢合わせないようにしながら、一息つける場所であった。
あれだけ激しくわめいていた蝉の声が減ってきていた。秋が訪れようとしているのか、風も湿気が少なく、頬をなでる風は爽やかだった。
「収穫が終わって、役人が根こそぎ持っていく」
崩れかけた入道雲を見て、反対側の村はずれにある自分の家に帰る前に、一雨くるかもしれない。
そう思ったが、帰る気になれず五郎は目の前にある大きな椿の木に目をやった。
たくさんのカナブンが、葉をかじっている。
このまま放っておけば、椿は丸裸にされて、花もつけなくなるだろう。
「いつも綺麗に咲くのを見せてくれるから、お返しをしないといけないよな」
そう、うなずいて。
五郎は気味の悪いほど、びっしりと葉を覆っているカナブンを払うために、近くに落ちていた小枝を拾い、椿が痛まないように気をつけて、カナブンがとまっている辺りを軽く打つ。
どうなるかは、考えなかった。
少し考えれば、わかるはずだった。
恐ろしいほど大きな低い羽音が、耳を突く。
飛び来るカナブンの大群に、五郎は悲鳴を上げながら、小枝を振り回して庵の敷地から逃げ出した。
頭に当たる小さく固い物体を払い落としながら、振り返ることも出来ず、必死で駆けていった。
羽音も消え、椿にとまるカナブンは半分に減っていた。
大きな椿の木の影から、おかっぱの少女がのぞく。
彼女が大きく一度手を打つと、椿についていた全てのカナブンは飛ぶことすら出来ずに、地面に落ちた。
もがく事もしない虫たちは、すでに息絶えている。月日がたてば、地に還り、木の肥やしとなるだろう。
紅色の美しい着物を身につけた少女は、黄色い鞠を抱えた。
虫たちを追い払おうとして反撃に遭い、逃げていった少年の背中を思い出す。
袖を押さえながら、鞠をつき始めた。
目を上げる。少年が戻ってきてくれないものかと思ったのだ。
成した事柄は失敗であったが、それ以上に嬉しかったのだ。
綺麗だと言ってくれた。お返しなんて、考えもしていなかった。
いつも寂しそうに縁側に座り、何があったとか、名誉の負傷だとか話してくれていた。
聞く事くらいしかできなくて、時折枝を揺らしては、返事のつもりであったけれど。小さな彼は、気づいていたのかは分からない。
おかしな奴がつきまとって困る。という話を聞いた時は、ひやりとしたけれど。
椿は、ただ聞いていただけだった。
名前も知らない彼が来ない日は、何かあったのだろうかと生垣の上に伸びている枝葉で探したりもした。
ふと少女は笑った。
ただの椿の木である自分が、人間を心配しているのだ。
ただ一人の少年を、待ち望んでいるのだ。
綺麗だと言ってくれた彼を想い、少女は幸せそうに笑った。
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おまけSSは、以前ブログに書いた物をそのまま載せております。
えっと、ネタバレ。注意で。(遅いよ